近年、親子でカナダへ移住する家庭が急増しており、特に「教育移住」を目的とした相談が多く寄せられています。就学前や小学校低学年のお子様を持つ家庭からの問い合わせが目立つ一方で、実際に移住を決断するには慎重な準備と深い覚悟が求められます。家族全員にとって人生を左右する大きな決断であり、簡単に実現できるものではありません。
移住を考える親たちの動機の一つには、「日本に閉じた人間」に子どもたちが成長してしまうことへの危惧があります。グローバル化が進む中で、多様な価値観や文化を体験しながら、自分の可能性を広げてほしいという願いから、カナダのような多文化共生が最も進んだ国を選ぶ家庭が多いのです。
カナダの教育環境には、日本にはない魅力がある一方で、苦労や課題も少なくありません。今回のブログでは、家族での教育移住を検討する際に知っておきたいポイントや、実際の生活で直面する現実について少し考えてみたいと思います。

カナダ移住のメリットと課題
カナダは、多文化共生が進んでおり、移民にとって親しみやすい国と言われています。教育面においても、中高の受験も無くのびのびとした環境、個性を尊重する教育方針が特徴で、日本の集団、調和教育と異なる魅力があります。例えば、小学校では生徒同士が協力して学び合う姿勢を重視し、テストの点数よりもプロセスや努力を評価する傾向があります。さらに、教師は生徒一人ひとりの努力や成長を積極的に褒め、自己肯定感を高めることを非常に大切にしています。このようなアプローチは、子どもたちの自信、自主性や創造性を育む大きな利点です。また、自然豊かな環境で生活することで、アウトドア活動や地域交流を通じて社会性や体力を養うことも可能です。
一方で、移住後の生活には多くの課題もあります。言語の壁は、多くの家庭が直面する最初のハードルです。特に、子どもが学校で英語を学びながら新しい環境に適応することは簡単ではありません。親も現地の習慣やシステムを理解する必要があり、最初の数ヶ月は戸惑うことが多いでしょう。また、親子それぞれが新しいコミュニティに溶け込むには時間がかかることも少なくありません。

生活の立ち上げで直面する課題
カナダ移住後、最初に直面するのが生活の立ち上げです。住まいを整え、子どもたちが学校に通い始めるまでには、さまざまな手続きや準備が必要です。体験談を聞くと、以下のような点が大変だったと感じるママたちが多かったです。
家探し(賃貸契約や地域選び、治安や学校区の確認)
ファミリードクター(かかりつけ医)の探し方(空き状況の確認)
子どもの予防接種の引き継ぎ(学校や医療機関で必要な書類の準備)
公共サービスの手続き(ID (身分証明書) ,SIN番号, MSP(医療サービスプラン)などの申請、銀行口座の開設)
移動手段の確保(車の購入・レンタル、公共交通機関の利用方法の理解)
インターネット・電話回線の契約(生活基盤の整備に欠かせない通信環境の確保)
必要な生活用品の買い出し(家具、家電、寝具、日用品の準備)
子どもの学校の登録手続き(入学書類、英語力のテスト結果の提出)
学用品の購入(地域によって必要なものが異なる場合がある)
近隣コミュニティやサポートネットワークの構築(近所の情報収集、ママ友作り、サポートグループの参加)
これらの作業は、言語や文化の違いがある中で行うため、予想以上に時間がかかることがあります。特に医療関係の手続きは、日本のようにスムーズに進まないことも多く、忍耐力が必要です。また、子どもの学校の準備や学用品の購入なども重なり、親にとっては多忙な時期となります。
生活費と教育費の現実
カナダへの教育移住を考える際には、生活費と教育費の計画が欠かせません。カナダでは医療費が基本的に無料ですが、生活費は地域によって大きく異なります。特に都市部では家賃や食費が高く、予想以上の出費に驚く家族も少なくありません。
また、公立の小中高等学校は、永住者、親がワークビザを持つ場合、または親がフルタイムの留学生である場合、授業料が無料になることが一般的です。しかし、英語学習サポート(ESL)や課外活動、教材費などで追加の費用が発生することもあります。一方、プライベートスクールを選択する場合は、年間1万〜3万カナダドル以上の授業料がかかることが多く、さらに大きな経済的負担となります。そのため、移住前に十分な予算計画を立てることが重要です。
親としての心構え
教育移住は子どもたちの将来のための大きな投資ですが、親にとっても成長の機会となります。カナダの文化や価値観に触れることで、親自身も柔軟性を身につける必要があります。また、子どもが現地での生活に不安を感じたり、学校で苦労する場面もあるでしょう。そのような時、親が支えとなり、焦らずに寄り添うことが大切です。子どもだけでなく、親も現地のサポートネットワークやコミュニティに積極的に参加することで、移住生活をより充実したものにすることができます。
移住のタイミング:就学前から小学校低学年が理想?
移住のタイミングとして多くの家庭が選ぶのは、子どもが幼稚園や小学校低学年の頃です。この時期は言語や新しい環境への適応力が高く、現地の学校生活にスムーズに溶け込みやすいとされています。一方で、中高生の年齢での移住は、言語習得のハードルが高まることや、学業や進路選択への影響を考慮する必要があります。ただし、年齢に関係なく、子どもが移住に前向きかどうかを確認し、家族全員で話し合いながら進めることが重要です。

移住を成功させるために
カナダへの教育移住は、子どもたちの未来を広げる素晴らしいチャンスですが、それを成功させるためには、親の忍耐と努力が欠かせません。カナダの文化や環境に適応する過程では、予想以上の課題や戸惑いが生じるかもしれませんが、それらを家族で力を合わせて乗り越えることで、新しい生活が豊かで実りあるものになるでしょう。
ただし、いきなり完全に移住を決断するのは大きなリスクを伴います。私の経験談ですが、行ってみて肌に合わない土地だと感じることもありました。そこで、移住の第一歩として、まずは親子で短期留学を経験することをお勧めします。短期間でもカナダの教育環境や生活スタイルを体験することで、現地での生活に対する具体的なイメージが湧き、移住後の準備や計画をより現実的に立てることができるでしょう。また、短期留学を通じて子どもが現地の文化や英語に慣れることで、いざ移住する際の適応がスムーズになるという利点もあります。
さらに、短期留学は、親にとっても重要な判断材料を提供します。現地の教育方針や学校の雰囲気、生活費の実態を実際に確認することで、本格的な移住が家族にとって適切かどうかを冷静に判断することができます。また、留学中に築いた現地の人脈や情報ネットワークは、将来的な移住生活において大きな助けとなるでしょう。
カナダでの教育移住は大きな挑戦であると同時に、親子で成長できる貴重な機会です。短期留学を活用しながら慎重に計画を進めることで、ご家族にとって最適な道を見つけることができるはずです。
執筆者
カナダ在住ママ:T.H.