親日家が多いカナダ?

私はアメリカのシアトル近郊やシカゴといったリベラルな地域で14年間、そしてカナダで15年間暮らしてきました。アメリカでの生活では、アジア人であることから、どこか軽んじられているのではないかと感じることがたびたびありました。例えば、意見をしっかり聞いてもらえなかったり、「ヘイ、ジャップ!」と学校でからかわれたりしたことがあります。また、炊飯器でご飯を炊いているとアメリカ人ルームメイトに「臭い!」と言われ、家中の窓を開けられてしまったこともありました。こうした経験は非常に露骨で、大きなショックを受けたことを今でも覚えています。

一方、カナダは多文化主義を掲げる多民族国家で、日本文化への関心が特に高いことがとても印象的です。アニメやマンガ、日本料理などが広く親しまれているだけでなく、折り紙や太鼓や琴などの和楽器など伝統文化も注目を集めています。また、私の息子が通う学校でも第二言語として日本語が提供されており、日本の文化的な魅力が若い世代にも浸透しているのを感じます。アメリカでの経験と比べると、カナダの多文化共生の姿勢が際立ち、より居心地の良さを実感しています。
カナダにおける日本文化の魅力
カナダで日本文化に対する関心が高まり始めたのは、1980年から1990年代にかけてのことです。この時期、日本のアニメや漫画が海外で人気を集めるようになり、さらに寿司やラーメンといった食文化が浸透し始めました。現在では、バンクーバーやトロントのレストラン街を歩くと、寿司やラーメンの専門店、日本のカレー専門店など、数多くの日本食レストランを目にすることができます。しかし、日本文化への興味はこうした流行的な要素だけに留まりません。
例えば、カナダの多くの人々が禅や茶道、書道といった伝統文化に触れ、日本人の美意識や哲学に共鳴しています。特に、カナダの自然や持続可能性を重視する価値観は、日本の自然崇拝や「和」の精神と共通点があり、それが日本文化の魅力を引き立てているのでしょう。例えば、バンクーバーには日本庭園が多く、地域住民の間で自然との調和を大切にする考え方が広がっています。また、カナダのアーティストであるジェシカ スチュアートは、琴を取り入れた音楽制作を通じて、日本の伝統的な音楽と哲学に共鳴し、カナダの文化に日本の影響を融合させています。こうした活動は、日本文化への深い理解と感銘を与え、カナダ人にとっての日本の美意識への関心を高めています。

歴史的背景と日系カナダ人の努力
現在のように日本文化が広く受け入れられるまでには、長い歴史と多くの犠牲がありました。明治時代から昭和初期にかけて、多くの日系移民がカナダへ渡り、厳しい労働条件の中で生活を切り開いてきました。特に、20世紀初頭には日系人の漁業や農業が地域経済に大きな貢献を果たしました。
しかし、1941年12月の真珠湾攻撃をきっかけに、カナダ国内での日系人収容政策が行われ、罪の無い日系人が「敵性外国人」とみなされました。1942年には、日系カナダ人約22,000人が財産を没収され、内陸の収容所や農場へ強制移住させられました。この収容政策は主に、ブリティッシュ・コロンビア州 のコロンビア渓谷やアルバータ州、マニトバ州などで行われました。収容政策は1949年に終了しましたが、日系に対しての差別と偏見は続き1988年、カナダ政府は正式に謝罪し、補償金を含む救済措置を提供しました。戦後、日系人コミュニティは懸命に復興し、カナダ社会における尊敬と信頼を取り戻していきました。この努力の積み重ねが、カナダ人の日本や日本人に対する理解と親しみを深める土台となったのです。
日本とカナダの関係性
カナダと日本は、公式の外交関係において長年良好なパートナーシップを築いてきました。経済、教育、観光といった分野での交流が進む中で、日本語学習者の増加や姉妹都市提携といった草の根の活動も広がりを見せています。例えば、バンクーバー市と横浜市、ビクトリア市と盛岡市、トロント市と相模原市といった姉妹都市提携は、地域間の文化交流や友好関係を深める役割を果たしています。このような取り組みが、カナダ国内での「親日家」の増加に寄与していると言えるでしょう。

多文化共生の中の日本文化
カナダの多文化主義は、異なる背景を持つ人々がお互いを尊重し合う社会を目指しています。このような環境の中で、日本文化は独自の存在感を保ちながら、他文化と共存しています。例えば、日本の伝統的な祭りが現地風にアレンジされたイベントとして開催されることがあります。バンクーバーの「桜祭り」では、和太鼓の演奏や茶道の披露に加え、地元で人気の「ジャパドッグ」( カナダ発祥のフュージョンフードで、味噌、照り焼きソースや海苔などの和風トッピングを加えたホットドッグ) や抹茶ラテ、さらにカスタードやチョコが入った、たい焼き、エビを使った、たこ焼きなどが提供され、伝統と現代が融合したユニークな文化体験が楽しめます。また、アニメやコスプレをテーマにしたイベントでは、日本のポップカルチャーがカナダの若者文化と結びつき、新たな形の文化交流が生まれています。こうした取り組みは、日本文化がカナダ社会に「溶け込む」だけでなく、他文化との交わりを通じて「発展」していることを象徴していると言えるでしょう。
未来への希望
今後、日本文化とカナダ文化の交流はさらに深まるでしょう。その土台には、日系人の努力があり、過去の困難を乗り越えてカナダ社会に溶け込んできた歴史があります。日本からの新しい移民や旅行者が増える中、両国の人々が互いに学び合い、関係を深めていくことが期待されます。親日家が多いカナダでは、日本の文化的魅力とともに、日系人コミュニティの存在がその背景にあります。この特別な絆を大切にし、共に新しい未来を創造していくことを願っています。
執筆者
カナダ在住ママ:T.H.