留学を希望する生徒さんやその保護者の中には、「日本人が少ない学校や地域で留学生活を送りたい」と考える方が少なくありません。その多くは、英語の習得を最優先とし、日本語を使う機会を減らすことで効率的に語学力を伸ばしたいという思いからです。しかし、このような環境がすべての学生に適しているとは限りません。
私自身、留学生が多い、つまり日本人も多く在籍する大学と、留学生の割合がわずか1.6%で日本人も殆ど居ないという大学の両方を経験しました。
留学生が少ない大学では、クラスでは現地のネイティブスピーカーと同等の英語力が求められ、授業中やテスト中、「わからない言葉は辞書で調べてもいい」という配慮は一切ありません。成績も厳格な基準で評価され、英語のミスが多いとレポートをまず読んでもらえず、書き直しを求められることもありました。留学生だからといって特別扱いされることはなく、むしろ非常に厳しい環境でした。テストでは、問題文の意味がわからず失点して悔し涙を流した経験もあります。
一方、留学生全体の割合が高く、日本人も多く在籍する大学では、手厚いサポート体制が整っていました。例えば、エッセイや、論文の添削を無料で受けられるサービスや、外国人向けのカウンセリングが充実しており、学業面だけでなく精神的な支援も得ることができました。また、留学生同士の交流イベントや現地の人々とのアクティビティが頻繁に行われるため、幅広い友人を作るきっかけが多くあります。
しかし、留学生が少ない大学ではこうした支援はなく、外国人に慣れていない先生が早口で授業を進めることもあり、内容を理解するのに苦労した経験もあります。また、現地のクラスメートとは仲良くなれたものの、「週末会おうよ!」と言われて待ちぼうけになり、後からそれが単なる社交辞令だったと気づくようなこともありました。
こうした経験を通じて感じたのは、どのような環境が合うかは人それぞれであり、性格や目標、現時点の英語力、そして現地でのサポート体制によって大きく異なるということです。

今回は、日本人が少ない学区で留学する際のメリットとデメリットを詳しく解説し、選択肢を検討する際に役立つヒントをご紹介します。
メリット:英語力の飛躍的向上
まず、留学生が少ない学区の最大のメリットは、英語を習得するための理想的な環境が整っていることです。特に、地方や郊外の学校では、周囲に留学生も少なく、ホストファミリーもほとんどがカナダ人家庭で構成されているため、日常生活のあらゆる場面で英語を使用する必要があります。学校の授業や友人との会話を通じて、自然と英語力が鍛えられるでしょう。
さらに、日本語を話せる相手がほとんどいない状況では、英語に頼るしかありません。このような「英語漬け」の環境では、語彙力やリスニング力だけでなく、日常会話を通じた表現力も大幅に向上します。特に、自ら積極的に話しかけたり質問したりする生徒は、短期間で飛躍的な成長を遂げる可能性があります。このような環境は、単に語学力を伸ばすだけでなく、自信や自己解決能力も養う大きなきっかけとなるでしょう。
メリット:文化体験と柔軟性の向上
留学生が少ない地域では、現地の文化に深く触れる機会が増えます。例えば、学校行事や地域のイベントに積極的に参加することで、カナダ独自の生活習慣や価値観を直に体験することができます。このような異文化体験を通じて視野が広がり、柔軟な考え方や異文化理解力が自然と身につきます。
デメリット:孤立感と適応の難しさ
一方で、留学生が少ない環境にはいくつかの課題もあります。特に、ESL(English as a SecondLanguage)クラスがない学校では、留学生向けの特別な英語サポートを受けられない場合が多く、現地の生徒と同じクラスで授業を受ける必要があります。このため、英語力が十分でない場合は、授業内容の理解に苦労し、学業面でのストレスが大きくなる可能性があります。
例えば、私が最初に直面した課題のひとつは、授業中に出てくる専門用語や複雑な課題の理解でした。慣れない英語での説明に時間がかかり、課題の提出期限に間に合わないこともありました。こうした状況は、留学生にとって大きなプレッシャーとなります。
また、周囲に日本人の友人又は留学生がいない環境では、孤独感を感じる場面が増えます。留学生が多い学校では、国際的なコミュニティやサポート体制が整っている場合が多いですが、留学生が少ない学校では、こうした交流の場が限られていることも珍しくありません。そのため、文化や言語の壁を越えるのに時間がかかり、特に留学初期にはホームシックに悩む学生も少なくありません。
さらに、現地の生徒との交流に慣れるまでに時間を要することもあります。例えば、クラスメートが親しげに声をかけてくれたものの、それが単なる社交辞令だったと後から気づいたときには、孤独感が一層深まりました。このような状況は、メンタルヘルスにも影響を及ぼし、不安やストレスが蓄積しやすくなるため、適応に時間を要する環境では自分自身を追い詰めすぎないことが大切です。また、必要に応じて学校や周囲の人々からサポートを受けることも忘れないようにしましょう。

適応力を高めるためのヒント
孤立感や適応の難しさを乗り越えるためには、以下のような工夫が効果的です。
現地の活動に積極的に参加する
学校のクラブ活動やスポーツチームへの参加は、現地の生徒との交流を増やし、友情を築くための良い方法です。特にカナダでは、スポーツや音楽、美術などの課外活動が学校文化の重要な一部を成しています。同じ趣味や興味を共有する仲間と過ごす時間を通じて、言葉の壁を越えた信頼関係を築くことができます。また、地域のボランティア活動やイベントにも参加することで、学校以外でのつながりを広げることが可能です。
ホストファミリーとの関係を築く
ホストファミリーは、現地生活を支える大切な存在です。毎日の会話を積極的に楽しんだり、家庭のイベントに参加したりすることで、家族の一員としての絆を深めることができます。また、文化の違いについて質問したり、逆に自分の文化を紹介したりすることで、相互理解が深まります。困ったときには遠慮せず相談し、サポートを得ることも重要です。こうした関係は、留学生活の安心感につながり、孤独感の軽減にも役立ちます。
留学生同士のコミュニティを活用する
留学生が少ない地域でも、SNSや地域の情報掲示板を通じて、近隣の留学生とつながる機会を探してみましょう。同じ経験を共有する仲間と話すことで、悩みや不安を共有でき、心強さを感じられます。また、留学生向けのサポートセンターや日本人コミュニティが存在する場合、必要に応じて活用するのも一つの方法です。
家族やサポートネットワークの重要性
留学中の生徒が孤立を感じないためには、家族や留学エージェント、学校スタッフとの連携が重要です。保護者は、定期的に連絡を取って子どもの様子を確認し、精神的なサポートを提供しましょう。また、現地での問題があれば、早めに学校やエージェントに相談することで解決につなげることができます。
選択肢の幅を広げる
日本人が少ない& 留学生が少ない環境が理想的だと考える一方で、必ずしもそれが全ての留学生に適しているわけではありません。たとえば、日本人が少ないエリアを希望しているものの、最初は言語の壁や孤独感が心配な場合は、サポート体制が充実しているエリア、学校を選ぶのも一つの方法です。大都市近郊には、日本語を話せるカウンセラーや留学生向けのプログラムが整っている学校も多くあります。
まとめ:自分に合った環境を見極める
日本人、留学生が少ない学区で学ぶことには、英語力の飛躍的向上や異文化体験という大きなメリットがありますが、孤独感や適応の難しさといった課題もあります。これらのメリットとデメリットを十分に理解した上で、自分自身の性格や目標に合った環境を選ぶことが成功の鍵となります。
執筆者
カナダ在住ママ:T.H.